”紙つなげ!”美談に終わらない震災ノンフィクションに学ぶリーダーシップ、日本製紙石巻工場の復興

2015年2月22日日曜日

読書

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そろそろ、震災から丸四年が経ちます。

昨年末に、「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている」という日本製紙の石巻工場の復興をつづったドキュメンタリー小説を読みました。

紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

佐々 涼子 早川書房 2014-06-20
売り上げランキング : 3183
by ヨメレバ

震災というと、海外などからは、日本人のマナーの良さなどキレイな部分が表面にでてくることが多いのですが、そうではない部分も含めて書かれた本書を読んで、良いタイミングで改めて、震災のことを考え直す機会が得られました。

本書の3つの魅力


本書は以下の3つでした。



  • 震災という緊急自体における真の「リーダーシップ」
  • 震災復興をただの美談で終わらないノンフィクション小説
  • 当たり前になりすぎたコモディティ「紙」の学び

リーダーシップ「工場長の仮面をかぶって演じてやろうじゃないか」

本書を読んで一番感動したのは、社長や工場長といった、それぞれのシーンでのリーダーの決断でした。中でも特に工場長 倉田さんには心をうたれました。

「だんだん不安や疲労で、従業員たちは疲弊しはじめている。モチベーションを保つには具体的な目標を設定することが必要だと思うんだ。」
p.106 工場長 倉田博美

これは、震災でぐちゃぐちゃになって、誰もが「工場は死んだ」というなか、半年復興という目標を掲げたときのことを振り返っての工場長 倉田さんの言葉。そのころのことを振り返って、倉田さんはこう言います。

私は工場長です。暗い顔をしていたら部下は不安になるだけです。「工場長の仮面をかぶって演じてやろうじゃないか」と思っていました。
p.255 倉田工場長
リーダーとして、目標設定と役割を演じることの大切さを感じました。仕事でも、トップ層や上司たちは、「そんなことできないよ」という理不尽なことをいってくることがあります。しかし、そこで、すこしでもリーダーが「どうせ、できない」と言ってしまったら、「できないものは、できない」になってしまいます。

街はまるで空襲にでもあったかのような焼野原となっており、その光景が延々と続いている。明るい話など、ほとんどきかれることはなかった。あそこで何人、誰かの家族が何人、と死亡者の数が増えていくそんな状況の中での工場復旧は、自分たちの力で唯一手に入れることのできる未来だったのかもしれない。そこに向けて作業している時だけ、微かに具体的な展望を思い描くことができた。腹は減り体は疲れていたが、彼らは復興という具体的な目標にひた走った。(p.160)


美談に終わらないノンフィクション

私自身、震災関連の書籍をそんなに読んだわけではないが、痛々しい震災の状況と、そこでも日本人のアイデンティティの美しさを語る美談をたくさん、ニュースなどで目にして、なんとなく、自分も日本人として心地よく思っているところもあったような気持ちがしていたが、どこかで違和感を感じていたんだと、本書を読んで思いました。

ひどいもんをいっぱい見ましたよ。報道では美談ばかりがいわれるけどそんなもんじゃない。人の汚いところをいっぱい見ました」p.212
(ファミリマートをピクニック気分で、2,3家族が襲撃する。)
生きるためにやっているのではないことは、すぐにわかった
彼らが抱えていたのはビールのケースだったのだ。
〜中略〜
窃盗犯の顔を見れば、唇にはうっすらと笑みすら浮かんでいる


この他にも、いくつかの実態が、紹介されていました。そういったところにもスポットライトを当ててくれた本書に感謝をしたいと思いました。

コモディティ「紙」になに思う

本書の舞台である、石巻工場では、永遠の0、ロスジェネの逆襲、ONE PIECE、NARUTO-ナルト-などの文庫本、単行本の本文用紙が印刷されている。

復興後、発刊された村上春樹氏の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は、震災から復興した、石巻工場で印刷された

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

村上 春樹 文藝春秋 2013-04-12
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p.4
「多崎つくる」の本文で使用されている紙の名は「オペラクリームHO」。広葉樹チップのみで作られている。広葉樹は針葉樹と比べて繊維が短く、柔らかいのが特徴だ。広葉樹の柔らかさはこの紙の手触りの良さを生み出している。
〜中略〜
軽さの割に嵩が高く、背幅をだす。美しい単行本の装幀は、物語のボリュームと紙の嵩のバランスの上に成り立っている。
そして、まさに、この箇所を読み名がらめくっている、本書の紙も「オペラクリームHO」である。いまめくっている紙がなんという紙か、なんてことを考えたことがこれまであっただろうか?

p.256
「2014年版 出版指標年報」によると、2000年には書籍と雑誌を合わせた推定販売部数はおよそ41億8000万冊だったのが、2013年は、24億4000万冊にまで落ち込んでいる。

実は、私は、大学〜大学院まで、農学しかも、林業について学んでいて、就職先としては、製紙業界に行く人たちも多かった。実際問題、針葉樹や広葉樹の木繊維を顕微鏡で眺めたりしていたものである。そんななか、このインターネット全盛の時代、「紙に未来はない」。とIT企業に就活した。

当時、オープンキャンパスで再生紙の木繊維をバラバラにして
顕微鏡で見てみよう!というので撮った写真
茶色いのが広葉樹の木繊維、黒っぽいのが針葉樹の。たしか(苦笑)


そんな私が、こうして再び「紙」に想いをはせることがあるとは思いませんでした。電子書籍も便利だし、メモにEVERNOTEも便利ですが、やはり、紙にペンで書くという行為、紙の一覧性や偶発性、思い立ったときにすぐ書けるという利便性などは、まだまだ「紙」は高い優位性を持っていますね。

まとめ

本書は震災からリーダーシップのあり方と、生活の中であまりにも当たり前になっている「紙」を支える人々の存在にスポットライトを当てたノンフィクション小説でした。真摯な取材に基づく文章にも心をうたれました。

<併せて読みたい>

震災において、リーダーシップ論とともに、組織運営について多くの学びが得られる書籍として、以下も併せておすすめします。早大MBA講師である西條氏が以下にして、日本最大級の震災ボランティアを立ち上げ、運営したのか、が平易で分かりやすい文章で説明されています。

「僕らの目的は被災者支援です。問題を起こさないことが目的ではありません。被災者支援が目的である限り、やめるという選択肢はないです。」p.202

人を助けるすんごい仕組み――ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったのか

西條 剛央 ダイヤモンド社 2012-02-17
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<今回ご紹介した本>
紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

佐々 涼子 早川書房 2014-06-20
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